吉田晃敏 未来の展望鏡


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遠隔医療の変遷

遠隔画像伝送の眼科医療での必要性

北海道は広大な面積を有しており、人々が移動に利用する空港が13カ所もある。 更に、冬期間の雪害や悪天候で交通機関が麻痺に陥ることも少なくない。そんな中でも、患者さんは重い病をおして病院を目指さなくてはならない。

特に眼科の場合、患者さんが一人で移動できず家族や知人が付き添い旭川医大まで来院する場合も多い。私たちの最初の目標は、“患者さんが移動する”のではなく“病状の情報を移動させたい”。 それができれば、検査や診療、手術など病状に合わせて“必要な時、必要な病院を選ぶ”ことが可能になる。 離れたところからの診察のみならず、遠隔で手術支援も可能になる。


遠隔医療の歴史

1994年10月20日 旭川医科大学眼科医局 ⇔ 余市協会病院
INS net64 1回線使用
画像・音声双方向伝送に成功。伝送画像が1秒間15コマ程度でなめらかさに欠ける
余市協会病院との伝送

1995年1月 旭川医科大学眼科医局 ⇔ 旭川高砂台病院
INS net64 3回線使用
画像・音声双方向伝送に成功 伝送画像が1秒間30コマでなめらかになった 静止画では鮮明な画像診断が可能 しかし、動画像では不鮮明さが否めない
高砂台病院からの映像

1995年12月21日 旭川医科大学眼科医局 ⇔ 釧路赤十字病院
INS net1500 1回線/INS net64 1回線を合わせて使用
画像・音声双方向伝送に成功 伝送画像が1秒間30コマでなめらかになった 静止画では鮮明な画像診断が可能 しかし、動画像では不鮮明さが否めない
釧路赤十字病院とのやりとり

1996年11月 旭川医大眼科の関連病院に遠隔医療システムが広がる
INS net1500 1回線/INS net64 1回線を合わせて使用
日常の診療支援におおいに役立つ。更に、手術支援も始まった
余市協会病院との伝送

1996年11月14日 旭川医科大学眼科医局 ⇔ ハーバード大学S・E・R・I
国際公衆回線
米国・ボストンを結ぶテスト開始。動画像・音声の相互伝送に成功
米国からの映像

1996年12月11日 旭川医大手術場 ⇔ 旭川医科大学眼科医局 ⇔ スケペンス眼研究所
ハーバード大学S・E・R・I(米国・ボストン)間と本格運用開始
旭川医大手術場からの硝子体ライブ手術をリアルタイム伝送しカンファレンスを実施 (3地点相互伝送)
カンファレンスの様子

1997年11月19日 旭川医科大学眼科医局 ⇔ ハーバード大学S・E・R・I ⇔ 市立旭川病院眼科
市中病院を含んだ三元遠隔医療に成功
市立旭川病院眼科の患者さんを旭川医大眼科とハーバード大学S・E・R・Iで同時に診察しながらカンファレンスを実施
三元遠隔医療診察の様子

1998年10月16日 旭川医科大学眼科医局 ⇔ 南京中医薬大学 眼センター(中国)
旭川医大眼科医局とライブカンファレンスを実施
旭川医大眼科医局から硝子体手術映像の伝送と解説を実施
南京中医薬大学から屈折矯正手術のライブ映像を伝送以後、各種カンファレンスにもシステム利用
中国からの映像

1999年7月15日 旭川医科大学附属病院に遠隔医療センター開設
眼科を含めた全診療科目に対応
カンファレンスルーム
第1診断室(感覚器系)
第2診断室(病理)
第3診断室(X線・CT・MRI・RI)
第4診断室(内視鏡・心電図・脳波)
各科、関連病院との間で遠隔医療システムの導入が加速している
遠隔医療センター

2000年7月 旭川医大遠隔医療センター ほか各遠隔医療施設 ⇔ 市立根室病院
市立根室病院と全診療科で遠隔医療の供用を開始する
遠隔医療の集中管理を行える操作室を中心に、手術室、内視鏡室、CT検査室、病理検査室、眼科診察室などと旭川医科大学の遠隔医療センターほか、 各地の遠隔施設設置病院と接続
市立根室病院と全診療科で遠隔医療の供用を開始

2001年2月 旭川医大遠隔医療センター ⇔ 旭川森山病院眼科
初の3D-HD立体高精細動画の伝送実験を行う
遠隔医療センターと旭川森山病院眼科間で眼科手術の立体高精細(3D-HD)動画を用いた伝送実験を実施
初の3D-HD立体高精細動画の伝送実験

2001年5月 旭川医大病院手術室 ⇔ 札幌厚生病院眼科
広帯域ネットワークを用いた3D画像伝送実験を行う
旭川医大病院手術室から札幌厚生病院眼科へライブ手術伝送実施手術経験医師が忠実な立体視を確認
広帯域ネットワークを用いた3D画像伝送実験

2001年5月 旭川医大遠隔医療センター ⇔ 札幌厚生病院眼科
硝子体手術シミュレーターの伝送実験を行う
遠隔医療センターと札幌厚生病院眼科との間で硝子体手術師ミュレーターを用いた仮想手術体験の伝授を実施
広帯域ネットワークを用いた3D画像伝送実験

2004年3月 旭川医大遠隔医療センター ⇔ 函館五稜郭病院
高精細画像(HD)を用いた手術動画伝送を用い手術支援を開始する
遠隔医療センターから函館五稜郭病院で行われる眼科の手術支援をリアルタイムで実施
高精細画像(HD)を用いた手術動画伝送を用い手術支援を開始する

2004年12月 旭川医大遠隔医療センター ⇔ 利尻国保中央病院 ⇔ 市立稚内病院 ⇔ 札幌メモリアル眼科
離島を含む4施設を結び四元遠隔医療実験を開始する
利尻国保中央病院、市立稚内病院、札幌メモリアル眼科、旭川医科大学遠隔医療センターの4施設を結び遠隔医療を実施
 一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏を結び患者さんの診察並びにその後の入院先、手術等について検討
離島を含む4施設を結び四元遠隔医療実験

2005年1月 遠隔医療センターのIP化を進める
ISDNを用いた通信からIP通信への移行を開始
遠隔医療センターのIP化

2006年2月 旭川医科大学 ⇔ シンガポール・ナショナル・アイ・センター(SNEC)
ABB「3D-HD方式とブロードバンドを活用した眼科における遠隔医療の実証実験」でシンガポールに向けた高精細立体動画伝送に成功する
平成17年度 総務省 アジア・ブロードバンド実証実験 「国際情報通信ハブ形成の為の高度IT共同実験『3D-HD方式とブロードバンドを活用した眼科における遠隔医療の実証実験』」として旭川医科大学、 シンガポール・ナショナル・アイ・センター(SNEC)に向けて立体高精細(3D-HD)リアルタイム手術動画伝送を実施
シンガポールに向けた高精細立体動画

2006年5月 遠隔医療センター ⇔ 利尻島国保中央病院 ⇔ 市立稚内病院
遠隔医療センター、利尻島国保中央病院、市立稚内病院のブロードバンド地上回線で結べない地域をJSATとの共同で衛星回線を用い実施
地上回線とは違う通信プロトコルの研究開発も実施

2006年6月 APAO 学会会場 ⇔ シンガポール・ナショナル・アイ・センター(SNEC)
APAOにてリアルタイム3D-HD手術伝送で学会会場に手術公開する
シンガポール・ナショナル・アイ・センターから学会会場に、シンガポール人の網膜硝子体手術を執刀しリアルタイムで公開カンファレンスを実施
会場では2,000人を超える医師、医学関係者が立体高精細手術動画を供覧
APAOにてリアルタイム3D-HD手術伝送で学会会場に手術公開

2007年2月 眼科における退院後の「在宅遠隔医療」を開始する
旭川医大眼科病棟と在宅患者さんをインターネット回線で結び、退院後の体調管理・監視を実施
入院病院から遠く離れた患者さんでも体調管理体制を充実させることで早期退院の促進に繋げられることを確認

2007年3月16日 日本 ⇔ シンガポール ⇔ タイ
アジア三カ国を結び立体ハイビジョン映像を用いたバーチャル眼科シンポジウムを実施
総務省の「アジア・ブロードバンド実証実験」2年目として日本、シンガポール、タイの三カ国を結んでライブ手術画像伝送を供覧しながらの「バーチャル 眼科シンポジウム」に成功 旭川医大から他の二カ国へ、シンガポールから、タイからそれぞれ他の二カ国へ同様にリアルタイムでライブ手術を伝送しながらカンファレンスを実施
バーチャル眼科シンポジウム

世界初の『バーチャル眼科シンポジウム』レポート

国立大学法人 旭川医科大学眼科学講座(吉田晃敏教授、遠隔医療センター長)では、総務省「国際情報通信ハブ形成の為の高度IT共同実験」のもとで、旭川医科大学とシンガ ポール ナショナル アイ センター(Singapore National Eye Center, 代表 Ang Chong Lye博士)、チュラロンコン大学眼科(代表 Dr.Prin Rojanaponpun)を独立行政法人情報通信研究機構(略NICT 理事長 長尾 真)の学術ネットワークJGN ll アジア・ブロードバンド回線を用いて接続し、医療格差の是正を目指した【3カ国同時開催3D-HDバーチャル眼科シンポジウム】を2007年3月16日に開催いたしました。

abb会場 会場 画面全体


【旭川医科大学における“未来の眼科学会”の試み】

<実施内容>

具体的には、日本、シンガポール、タイ各国の手術室から旭川医科大学遠隔医療センターを介し眼科の超微細顕微鏡手術を、3D-HD方式を用いリアルタイムで3カ国に伝送し、同時に相互に症例の検討を行う「バーチャル眼科シンポジウム」~“未来の国際眼科学会” です。

これは、ブロードバンド通信システムを利用してアジア近隣諸国に最先端医用技術である3次元高精細画像方式による遠隔医療支援技術を提供することにより、ICT環境・医療技術の向上への高い貢献が期待されます。


この世界で最初の“未来的学術会議”へ期待する日本の安倍晋三与党総裁から次のようなメッセージが贈られました。

今回、シンガポール・ナショナル・アイセンターとタイのチュラロンコン大学、そして日本の旭川医科大学との間で、「日本とアジア2カ国を結ぶ立 体・ハイビジョン映像を用いた、バーチャル眼科シンポジウム」が開催されますことを心よりお慶び申し上げます。

日本は2010年を目標年次として、アジア地域のすべての人がブロードバンドにアクセスできることを目指し、「アジア・ブロードバンド計画」を推進しているところであります。今回実施される「アジア・ブロードバンド計画」の遠隔医療実験、すなわち、立体・ハイビジョン顕微鏡手術映像をリアルタイムで3カ国同時に供覧し、バーチャルシンポジウムを行う試みは、世界で初めてと伺っております。本シンポジウムは、プロジェクトリーダーである旭川医科大学吉田晃敏教授とそのチームが、我が国の関係省庁と長年に渡って研究・実証してこられた成果であり、またシンガポールとタイ政府のご協力を賜り、今後のアジアにおけるICT分野での研究開発に更なる進歩となるよう、期待をしているところであります。

また、日本政府が支援しているこの取り組みが、アジア地域の医療レベルの向上のみならず、多くの分野で日本が世界に益々貢献できることを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます。

2007年3月16日
自由民主党総裁 安倍晋三
遠隔医療の推進方策に関する懇談会1 遠隔医療の推進方策に関する懇談会2  遠隔医療の推進方策に関する懇談会3

2007年4月
遠隔医療モデル事業「『医療の均てん化』を目指した新しい遠隔医療ネットワークの研究開発」実施

2008年3月21日 遠隔医療の推進方策に関する懇談会
総務省、厚生労働省の合同懇談会が開始され構成員の一人として活動を開始した。
遠隔医療の推進方策に関する懇談会1 遠隔医療の推進方策に関する懇談会2 遠隔医療の推進方策に関する懇談会3

2008年5月 旭川医大遠隔医療センター ⇔ 利尻島国保中央病院・道立香深診療所(礼文)
「医療均てん化」を目指した新しい遠隔医療ネットワークの研究開発を開始する
ブロードバンド地上回線の利用が困難な地域(利尻島国保中央病院・道立香深診療所(礼文)において高速無線LANを用いた遠隔医療を実証
さらに、既存の遠隔医療システムと連携した遠隔医療を実施
利尻遠隔医療

2008年12月 インターネット網とモバイル網を併用した遠隔医療システムの実証実験を実施
リアルタイムで行う遠隔医療において、多少の伝送遅延が許容される検査等の「映像」を従来通りインターネット網で送受信し、スムーズな会話が求められる「音声」を遅延の少ないモバイル網で送受信する遠隔医療システムを開発し、医師の評価実験によって実用性を確認しました。
実証実験の模様1 実証実験の模様2

2009年2月 総務省・厚労省「遠隔医療モデル事業」に北海道が認定され、プロジェクトリーダとして協議会を設立
総務省・厚労省「遠隔医療モデル事業」に北海道が認定され、プロジェクトリーダとして協議会を設立した。
道内10医療機関と遠隔医療ネットワークを構築し、遠隔医療の経済効果の試算や患者意識調査など国に対して提言やエビデンスを提出した。
遠隔医療モデル事業1 遠隔医療モデル事業2

2009年3月25日 遠隔医療モデル事業「『医療の均てん化』を目指した新しい遠隔医療ネットワークの研究開発」実施
総務省が中心となり実施している「平成20年度地域ICT利活用モデル構築事業(遠隔医療モデルプロジェクト等)」において“北海道”のプロジェクトが採択され、旭川医科大学が全面的委託を受けて事業を実施した。
本事業は、総務省が市区町村等に対し、遠隔医療を始め、医療・福祉・介護の事業テーマについて「地域ICT利活用モデル」(情報通信システムの企画・ 設計・開発、継続的運用及びそれに必要な体制づくり等ICTを利活用した課題解決のための一連の取組)の構築を委託するものでした。
遠隔医療モデル事業3 遠隔医療モデル事業4

2009年4月 「安心して早期に退院できる患者のフォローアップ体制の研究」を開始
患者が遠方の病院まで通院する負担を軽減し、自宅で安心して療養ができる体制を作るために、バイタルデータを患者の自宅から自動的に送信できる機能や、自宅にいながらいつでも病院とTV電話が行える機能などを備えた専用端末の開発および道内の医療機関と連携して患者をフォローアップできる遠隔医療システムの開発を行っている。
2011年1月から運用を開始する予定である。

2009年6月1日 平成21年度「情報通信月間」総務大臣表彰を受ける
受賞趣旨:
「医療分野において情報通信技術を活用した先進的な研究開発を数多く行うとともに、特に全国に先駆けて遠隔医療センターを開設し、国内47施設、海外4施設と医療機関連携を行うなど、遠隔医療の全国的な普及に尽力し、医療分野に置ける情報通信技術の利活用の推進に多大な貢献をした。」
平成21年度 電波の日・情報通信月間 記念中央式典1 平成21年度 電波の日・情報通信月間 記念中央式典2

2010年2月 総務省の「ユビキタスタウン構想推進事業」に、旭川医大と北海道が提案した「どこに住んでいても高度な医療が受けられる遠隔医療 普及推進事業」が採択される
総務省の「ユビキタスタウン構想推進事業」に、旭川医大と北海道が提案した「どこに住んでいても高度な医療が受けられる遠隔医療普及推進事業」が採択され、プロジェクトリーダとなる。
2009年2月から実施している「遠隔医療モデル事業」をさらに発展させるため、新たに、道内12医療機関と遠隔医療ネットワークで結び、眼科、脳卒中、放射線、病理の4分野での遠隔医療支援を開始した。
ユビキタスタウン構想推進事業1 ユビキタスタウン構想推進事業2 ユビキタスタウン構想推進事業3

2010年3月
総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」の「地球的課題検討部会 -遠隔医療等推進ワーキンググループ―」の委員となり、国に対して医療改革の政策を提言した。

2010年4月 高臨場感コミュニケーションシステムの研究開発を開始
あたかもその場で診察しているかのような遠隔医療支援を可能とする高臨場感コミュニケーションシステムの研究開発を開始した。
従来は、検査の映像を2次元で伝送していた が、それを3次元化し、患部の奥行きも正確に把握できる技術を開発している。


 
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